銀蔵ものがたり

今年は桜の開花がいやに早いですね~。
東大和市は都内と比べると、ちょいと標高が高いもんで、気温もだいたい
1℃くらい低いんですね。なので桜が咲くのも都内とは1~2日ズレがある
んですな。特に多摩湖堤防の辺りなんかはね。
それでも今年はやっぱり早いですね。
桜の見ごろがアッという間に終わってしまうのは残念ですが、この勢いで
花粉シーズンも素早く去ってくれることを望みます。切に。
グシュン。。。

さて、今回は幕末の出来事からちょっと離れて「こぼれ話」的なことを書こう
かと思います。まぁ。「里正日誌」の元治元年の箇所にでてくる記事なので、
幕末に起きた一件には違いないんですけどね。
まぁ、世の中の大勢にはまったく影響がない、ヒジョーに些末な出来事です。

「恐れながら書付をもって願い上げ奉ります
江川太郎左衛門代官所の支配である武州多摩郡蔵敷村小惣代名主の杢
左衛門が申し上げます。村の百姓藤助の次男銀蔵は今年28歳になります
が、農業の仕事をせずに大酒を好み、所々歩き回り、その上親である藤助の
思う所に反発し酒乱の上、度々喧嘩や口論に及び、親類や組合は申すに
及ばず、役人様方がつとめて意見など仰っても、さらに取り合わず大変当惑
しております。なにとぞ格別のご慈悲をもって銀蔵を召し出され、お説教を
していただきますようお願い申し上げます。以上。
    元治元年5月
                            杢左衛門
  木村樾(えつ)蔵様                       」


ホントに些末な記事でしょ。
銀蔵、なにやってんだよ、と言いたくなりますが、名主ですら手に負えないって
いいうのは相当のグレ方ですね。・・・まぁ、28歳ですけど。
で、「説教してやってください」と訴えた先、木村さんとはどんな人なのかと
いうと、これが関東取締出役なんです。例の「泣く子も黙る八州さま」ですよ。
八州さまって犯罪人の取り締まりだけかと思ったら、こんなことまで引き受けて
たんですねぇ。

「恐れながら書付をもってお慈悲を願い上げ奉ります
                     武州多摩郡蔵敷村
                      百姓 藤助倅 銀蔵28歳
右のものが博奕、その他悪事に関わったという噂をお聞きになり、近く村を
お廻りになられた時にお召取りになり吟味されている中ですが、しばらくご猶予
を願い上げます。銀蔵は心身とも実に厚く承り正すところ、犯罪に関わった事は
一切ないのですが、日頃の行いが不真面目で農業を怠り大酒を飲み、方々を
歩き回ることから、自然とあいつはいかがなものだろうかという噂が立ち、今さら
に今までの非行を悔いて重々恐れいっております。今後はきっと改心し農業に
帰りますので、ぜひともお慈悲を願い上げくれるよう私どもに取りすがり、ただ
共に歎き不憫に思いますので、お上を恐れずも嘆願奉ります。何とぞ格別のご
仁恵をもってこのたびのことはお許しなされますよう、村民一同、ご慈悲のご沙汰
を願い上げ奉ります。以上。
         江川太郎左衛門御代官所
                     武州多摩郡蔵敷村
                      百姓 藤助親類
  元治元年5月27日             百姓 籐七
                           組頭 平五郎
                           名主 杢左衛門
         松村忠四郎御代官所
         武州入間郡所沢村       名主 助右衛門
         江川太郎左衛門御代官所
         武州多摩郡八王子宿      名主 三郎兵衛
                            同  七郎兵衛
   関東取締出役
      木村樾蔵様                        」                        


と思ったら、その月のうちに「銀蔵を許してください」と、かなりトーンダウンした
嘆願書が出されました。それも父親・親類、杢左衛門さんだけじゃなく、所沢や
八王子の名主さんまで巻き込んでの嘆願です。
文面を読むと、銀蔵は不真面目なのでいろいろと良くない噂が立ち、犯罪に
手を染めているように云われてるけど、そこまでじゃありません。反省してるんで
帰してやってくれませんか、となっています。
銀蔵は確かに仕事もせず、飲んだくれて、村では手に負えなかったのかもしれ
ません。で、八州さまへご相談となったのでしょうね。
しかし、やはり八州さまは捜査官ですからね。大江戸FBIですから。
銀蔵を「犯罪者の疑いアリ」あるいは「犯罪者予備軍」という目で取り調べたん
じゃないでしょうか。
資料では銀蔵が何日間拘束されていたかはわかりません。でも、八州さまは
百叩きくらいの量刑なら自分で採決できましたから、親族や村人としてはちょっと
怖くなったのかもしれません。

このような周りの働きかけもあって、翌28日には銀蔵の請書が村から八州へ
出されています。良かったね、銀蔵さん!
つーか、働けよ!

さて、もう一つご紹介するのは、7月に江川代官所に出された書状です。

「恐れながら書付をもって願い上げ奉ります
                     武州多摩郡蔵敷分
                       百姓権左衛門
                        婿養子 金十郎32歳
右の者は、最近農業を嫌い大酒を好み、昼夜に限らず遠近方々を歩き回り、無駄に
浪費をいたすので意見すれども、更に言う事を聞かず行いが増長してきたので、
仕方なく親類、組合、村役人に申し出て、なお再三言い聞かせましたがいう事を
聞きません。たとえ勘当し人別帳からはずれても、少しも問題はなく不当のことで
あると申し、どうしても往々に心底は見届け難いのです。尤も、これまで悪事に
手を出したことはもちろん、事件を起こしたことは一切無いのですが、右の通り
不身情の者でこのままにしておき、万が一出かけた先で何か仕出かすかもしれ
ないので、後々の災難を片時も安心できないので、やむをえず勘当し人別帳から
外すことを願い上げます。何とぞお慈悲をもって金十郎の身分を願いの通り勘当
し人別帳から外すことを仰せつけくだされたく、一同連印をもってこの件をお願い
奉ります。以上。
         元治元年7月4日   右金十郎養父 百姓 権左衛門 
                       組合兼親類 百姓 三左衛門
                       村役人惣代 名主 杢左衛門
  江川太郎左衛門様 
           御役所                       」


ここに登場している金十郎は、銀蔵と同じようなことをしています。
ところが、金十郎の方は今後何をするかわかったもんじゃないから、勘当したい
のでその許可をくれと、養父、親戚、名主までもが訴えてます。
働かないで大酒呑み・・・と、銀蔵と金十郎は同じことをしているように見えます
が、藤助の実の子・銀蔵は嘆願書が出され、婿養子の金十郎は勘当される。
村民の温度差があって、面白いですね。

それにしても、狭くて収穫量の少ない村に、働かずに酒ばっか食らってるいい歳
した野郎が2人もいるなんて・・・大丈夫か、蔵敷村?
そりゃ、助郷なんて引き受けてる場合じゃないよね~。

20130325.jpg

新撰組の中で町中の様子を探ったり、浪士などの動きを調べるセクション
がありました。隊ではこれを監察と呼んでいました。
この監察で最も有名な隊士といえば、山崎烝(すすむ)さんではないで
しょうか。まぁ、有名ったって土方さんや沖田さんほどの知名度がある訳
じゃないんで、このあたりの隊士を知ってると「お、新撰組知ってるネ」なん
て言われるレベルの隊士ですね。
この人は京都あるいは大坂の針医者の息子と云われててます。監察という
密偵の仕事を任されるようになったのは、彼が京阪の出で地理・風習に
明るかったからでしょう。なので、映画やドラマではいつも町人の姿で登場
していますよ。
山崎さんの活躍で最も有名なエピソードは「長州浪士が集まってるのは
池田屋だ」ということを掴んだことで、よくドラマで出てくるシーンです。
これは西村兼文の「壬生浪士始末記」に出てくる話なんですが、実際に
池田屋に切り込んだ永倉新八の「新選組顛末記」にはその話が出てきま
せん。さらに、事件後に会津藩から新選組に出された報奨金を受け取った
リストの中に山崎の名前はないんですね。
もし、彼が池田屋が集合場所であることを突き止めたのであれば、第一の
功労者のハズ。やはり、永倉さんの書いた通り、池田屋事件に山崎さんは
絡んでなかったのでしょう。山南さんと同じく、屯所護衛チームだったのかも
しれません。


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コメント一覧

#202 銀蔵ものがたり
なるほどなぁ。このところの記事で、名主さんの役割・役回りが肌で伝わってきますね。
#203 Junpeiさま
私も資料を読むにつれ、名主の働きぶりに感心させられます。
また、組合などを通じて他村などと横のつながりもかなり綿密だったことも
覗えますね。
#204 深読み
八州廻りが銀蔵の逮捕に踏み切ったのは、犯罪関与の有無を取り調べるだけでなく
ほかにも理由があったかも?と感じました。
◯銀蔵を説教など素直に聞きそうもない奴と見て、1発で効くキツいお灸を据えることにした。
◯犯罪取り締まりだけで手一杯なのに、「不良息子を説教してくれ」とか嘆願されたので
 これ以上些細な問題を持ち込まれないよう、村民達を脅かしておくことにした。

『島田魁日記』には、池田屋事件の勃発前から島田魁、浅野藤太郎、山崎烝、川島勝司の4人で
探索に当たっていた旨があります。
なのに報奨金は島田17両、浅野20両、山崎は無し、川島17両。なんだか気の毒かも…

桜の盛りが過ぎようとしています。スギヒノキ花粉の飛散も早く終わって欲しいです。
#205 東屋さま
深読みありがとうございます。案外、そんなトコロなのかもしれません。
私も山崎烝の報奨金ナシってのは可哀想に思ってます。

東屋さんも花粉でお悩みでしょうか?
春は良い季節ですが、これだけが・・・ねぇ。
#206 札付きの悪
 多分、銀蔵も金十郎も、寺の管理する五人組の人別帳に札を貼られて、以後、札付きの悪として監視の生活に入ったと思われます。
 そこで、考えさせられるのが実子と婿養子の扱いです。婿養子は「来され者」で、村人たちにとっては、いつでも他人になり得ます。この事件の場合も内済で済まさず、名主が勘当と追放を願い出ていますから金十郎は実家へ戻る以外にはなさそうです。
 銀蔵と金十郎への対応に関する村の温度差は、江戸時代の陰の人権問題と思います。もし、金十郎を実家が受け入れなかったら、と考えると、この時代の村の冷たに背がゾッとします。野火止用水
#207 野火止用水さま
仰る通りで、同じような人物でも肉親かそうでないかで、かなりシビアな
対応だったんだなと感じました。
個人よりも家が重要視された時代で、家を守るために養子縁組は現代よりも
多かったと思いますが、クールな村民の感情に意外さを感じました。

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