この記事は2021年3月23日に書いていますが、昨日仕事で都内を歩いていると、
桜が七、八分まで咲いている所がありました。今日は陽射しもあって日中は暖か
だったので、一気に満開まで行った所もあったでしょう。
ところがワタクシの住んでおります東大和市は「東京の軽井沢」と呼ばれている
所(笑)ですので、多摩湖周辺のまだまだ桜も二分三分咲きといったところです。
最近は日中の気温が高いので、今週末がちょうど見頃を迎えるかも知れません。

多摩湖(村山貯水池)周辺は桜の木が多く植えられています。桜の種類としては
ソメイヨシノ、ヤマザクラ、サトザクラなど数種が植えられていますが、この
季節のメインとなるのは、やはりソメイヨシノでしょう。
これはどこの地域でも同じでしょうけどね。
ソメイヨシノは江戸末期に、江戸染井村(豊島区駒込)の植木職人が作り出した
と云うのはよく知られています。
江戸時代までは和歌に度々詠まれた大和の吉野山にちなんで「吉野桜」として
売られ広まりました。
ところが明治になって、植物学者の藤野寄命(よりなが)が「こいつぁタダのヤマ
ザクラじゃねぇ」ことに気づき、エドヒガンとオオシマザクラの交配新種である
ことを発見。染井村の名を取りソメイヨシノと名付けられました。
奈良時代の万葉集には梅を詠んだ歌が110首、桜の歌は43首あるそうですが、
古今和歌集では桜が70首、梅が18首となり、平安時代に花見の主役が逆転したと
云われています。
花見の習慣が庶民に広まったのは、江戸時代。
天海大僧正が上野寛永寺の境内に植えた桜が名所となりました。しかしお寺の敷地
内なので酒宴や歌舞音曲は禁止です。
それじゃあ庶民は楽しめまい、と云うことで暴れん坊将軍吉宗が享保5年(1720)
に隅田川堤や飛鳥山へ桜を植えさせて、庶民の行楽を奨励したのです。これが今に
続く日本の春の景色として定着したわけです。
もっとも、当時吉宗は享保の改革で庶民にも緊縮生活を強いていた最中であり、その
ガス抜きで花見を奨めたとも云われています。
江戸時代の桜エピソードでスゲーな、と思うのは吉原の桜でしょう。
毎年3月1日に染井村から根付の桜を運んでメインストリートに移し植え、花が散った
らさっさと抜いて翌年また植える、それを明治初期まで繰り返していたのです。

歌川広重「江戸名所 吉原仲の町桜時」
大変な労力と大きな無駄・・・とも思いますが、それだけ吉原は現実離れした
夢の世界だったのでしょう。
この吉原の桜は、今も歌舞伎の世界で見ることができます。
「籠釣瓶花街酔醒」(かごつるべさとのえいざめ)という芝居で、厳密には3代目
河竹新七が明治になって書いた戯曲ですが、冒頭に桜が満開の中を花魁道中が通る
シーンがあり、江戸吉原らしい見所の一つとなっています。
当代中村吉右衛門の代表作でもあり、機会があればぜひご覧あれ。
そんな江戸の人々を楽しませた桜ですが、明治に入り、桜が植えられていた庭園
や大名屋敷が次々と取り壊され、桜も焚き木とされたため、多くの品種が絶滅の
危機に瀕してしまいます。
こんな状況を憂いた駒込の植木職人高木孫右衛門が、自宅の庭に移植して84品種
を守り、明治19年(1886)に荒川堤に桜並木をつくり、以降花見の新名所として
定着させたそうです。

さて、冒頭にご紹介した多摩湖の桜ですが、昭和9年(1934)に服部時計店(現
SEIKO)社長の服部金太郎氏が亡くなります。その翌年、遺族から1万本の桜木の
寄付があり、人々が多く集まる貯水池の周囲に植えられたのが始まりです。
当時はね、都心から1泊で来るような観光地だったんですよ。
東京の軽井沢もまんざらウソではない。
ところでソメイヨシノは人の手で作られた桜だと言いましたが、自家和合性に
劣り、種子から発芽することができません。自分で子孫を増やすことができない
品種なのです。
つまり、現在世界中にあるソメイヨシノはかなり限られた数の原木から接木された
クローンである、と云うことになります。
このことが一斉に開花して、花見を盛り上げる理由ともなっているのですが、一方
で特定の病気にかかりやすく、環境変化に弱い理由にもなっています。
寿命も60〜80年と短く、中が空洞となった桜が台風などで折れて電線を切ったり
するケースも多いですよね。
実は多摩湖周囲のソメイヨシノも、寿命の来たものから切られており、現在は新しく
植えられた若木に代わっている最中です。
そのため、この数年は多摩湖に来られても迫力満点の桜はしばらく見られないかも
知れませんが、そこは暖かい目でこれからの桜の成長を見守って欲しいと思います。

公益財団法人日本の花会では、2009年から病気に弱いソメイヨシノの苗木販売を
中止し、替わって病気に強く、花の色や開花時期がソメイヨシノと類似する
ジンダイアケボノへの植え替えを推奨しているそうです。
「なんだー。このボタンちょっと押してみるんだな。うーん、なんだー。」


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