杢左衛門、探偵物語

「里正日誌」はどういうワケか文久元年(1861)に関する記述が少ないのです。
前回ご紹介した「和宮降嫁」に関するものが秋にある他は、春先にかけての記述と
して「由五郎始末」クリック!)が大きな話題として挙がっているだけです。
他には火災や盗難事件に関することが2~3件ありますが、蔵敷村近辺に関する話は
それだけです。
しかし、社会的な事件が2件書かれています。

2月(この時点では万延2年)に起きた「水戸玉造浪人事件」クリック!)と、5月
に起きた「第一次東禅寺事件」参考までにクリック!)です。
なぜこの2つの事件が「里正日誌」に取り上げられているかといえば、捕縛を逃れて
逃亡した者が逃げ込んでくるかもしれないということで、代官所から通達があったから
です。(村から代官所への返信が記載されています。)

このように江戸周辺では「桜田門外の変」以降、幕府のコントロール下から離れていった
浪士たちが、いつ次のテロ行為や暴徒化するのかわからない状況にありました。
この頃の「里正日誌」には「欠落」「不図出(ふっとで)」をする由五郎や梅吉のような
若者が細かく書かれていますが、その背景には、これらのグレた無宿人が暴徒の仲間に
入る危険性が多分にあったので、特に注目して記録されたのかもしれません。

さて、そんな最中の文久2年8月。
蔵敷村と同じく江川代官領である所沢村に、不穏な動きがあるとの噂が持ち上がりました。
しかもそれは、村役人たちに関することのようなのです。
事態を重く見た代官所は早速調査に入ります。しかし、調査の対象が村役人だけに代官所
から人を出したのでは、シッポを捕まえられそうにありません。
そこで代官所では一人の男に調査を依頼し、隠密に所沢村の内情を探らせることにしま
した。
その男こそ、蔵敷村名主、杢左衛門その人だったのであります!

「武州多摩郡所澤村の取締りについて、内密に申し上げるように仰せ付けられましたので、
左に申し上げます。」


以前から「バーディー大作戦」や「アイフル大作戦」が大好きだった杢左衛門さんは(ウソ)
この密命を引き受けます。そして憧れの谷隼人に倣って(ウソ)調査を開始。
以下、次のようにレポートをまとめました。

「所沢村は家々が建ち並んで農間稼ぎをしている者が多く、特に市や立場(たてば)で飲食
の渡世をしている者のうち、両3軒は芸者のような女を1人くらい、奉公人同様に働く女を
置いていますが、これまでどのような噂も聞きませんでした。
最近人の話に出るのは名主の助右衛門です。壮年になり特に短慮で意地をはるという
ので、隠居している祖父退蔵と仲が良くありません。
追々に村方へもこのことが伝わり、村民との関係も良くありません。
すでにこの春、助右衛門、退蔵、組頭の幸作、同佐次兵衛、年寄の半平の5人の家の門に
捨書きがありました。
また、村役人が12人ございます中で小十郎は正しいことをするのですが、幸作・佐次兵衛・
半平の3人は諺に言う日和見の心根に相見えます。
残りの勘左衛門・四郎右衛門・八右衛門・忠左衛門・彦七・源右衛門・徳右衛門・平兵衛の
8人は俗にいう壁成で役に立つとは申せません。
前書の通りなので、役人たちがそれぞれまちまちの判断を行い、取締ることがしっかりとは
行き届かないだろうと計り難いことです。
助右衛門の処置が変わることがないようなので、小前の者たちの噂話も良くありません。
このことをご賢察願い上げ奉ります。」


どうやら不穏な動きの元凶は、名主の世代交代にあったようですね。今風に言うなら
「大塚家具状態」とでも言うのでしょうか。
さらに12人いる村役人の中で、まともな判断ができるのは小十郎さんだけ。あとは日和見
だったり、壁成・・・というのはよくわかりませんが押しても引いても壁みたいに動いてくれ
ない人という意味なのでしょうか。まぁ、役には立たない人たちばかりのようです。
彼らの家の門には落書きがされているようで、村人からの信頼も無くしている・・・。
コレが杢左衛門さんの「調査報告書」でした。

「お尋ねになったことについて、有り体に申し上げ奉りました。万が一、所澤村の方で私へ
の遺恨を含め色々と申し上げる者もいるかと思いますが、前文に申し上げたことの外は
恐れながらご信用されないよう存じ奉ります。
事実を極秘に申し上げ奉りました通り、間違いございません。以上。
                         蔵敷分 名主 杢左衛門
 戌8月
   江川太郎左衛門様 御役所  」


蔵敷村は所沢を寄場とする所沢組合に入っています。その内情を探るというのは、杢
左衛門さんもさぞ緊張したことでしょう。
しかし、村々のこうしたゴタゴタから、嫌気がさした村民が欠落などすれば、それが大事
へと繋がる恐れもあります。
代官所が密かに調査員を仕立ててまで、村の実態をつかもうとした動きは幕末ならでは
の緊張感でしょう。
この史料の末尾には、杢左衛門さんの次の一文が書き添えてあります。

「右は文久2戌年8月27日御代官江川太郎左衛門様の御手代加判の中で、公事方掛り
根本慎蔵様へ内見されるよう封印して御役所へ差し出した。御同人様から内密に仰せ
付けられた。この書状を見られるのは加判の衆だけであり、外へは一切洩らさずと申し
ます。」


このような密命を杢左衛門さんに依頼し、また杢左衛門さんもすぐに実行に移すあたり、
この頃の江川代官所と杢左衛門さんは、大きな信頼関係で結ばれていたことがわかり
ます。

メガ32

「アイフル大作戦」と「バーディー大作戦」は、昭和の名作ドラマ土曜夜9時放送の
「キーハンター」と「Gメン’75」の間に放送された迷作ドラマです。
丹波哲郎、藤木悠、谷隼人、松岡きっこ、西田健、倉田保昭らが大活躍する
探偵アクション・コメディー超大作!
BSかCSで再放送してくれませんか?


「なんだー。このボタンちょっと押してみるんだな。うーん、なんだー。」



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コメント一覧

#1120 EYEFUL
舞台は「現代」、主人公は「探偵」、という国産ドラマを近頃見かけない気がします。
日本ではリアリティのない設定になっちゃうからでしょうか。

杢左衛門さんほど有能な名主なら、こうした調査も難なく成し遂げるでしょう。
ただ、代官所の指図で調査・報告したと世間に知れたらまずいでしょうから、
守秘のほうが大変というか、気を遣ったかもしれませんね。
#1121 12人いる!
村役人って、せいぜい名主、組頭、長百姓の三役に加え、ところによって村年寄が付く位だと思ってたので、所沢の12人は驚きです。そんなにいっぱいいたんだ。

恨みをもった12人の村役人が一人一刺づつ名主を刺す…なんてのも、プロット的には悪くないんじゃないでしょうか。
#1122 東屋梢風さま
探偵は事件を追う人ではなくて、浮気調査や人探しをする職業だということがわかってしまったからでしょうか。
しかし、昨年オダギリジョー主演作品でテレ東深夜に放送された「リバースエッジ大川端探偵社」は、その人探しをメインに据えたなかなか面白いドラマでした。
瑛太、松田龍平主演で映画やドラマにもなった「まほろ駅前シリーズ」は便利屋が舞台ですが、70年代の名作ドラマ「傷だらけの天使」を彷彿させるコンビドラマでした。
探偵ドラマのテイストを現代に求めようとすると、こういう形になるのかもしれません。
#1123 甚左衛門さま
ワタクシも12人は多いなぁと思いました。萩尾望都先生に確認を取ったくらいです(ウソ)
所沢は組合村の寄場でしたから、多くの仕事があったのでしょうか。まぁ、人数が多くても仕事してないんじゃどうしようもないですが(笑)
#1126 所沢のまち
 いつも良い話題を提供して下さって有り難うございます。この記事で興味を惹くのは、農間商いが多い中で、市場で「芸者様之もの壱人位宛奉公人同様相働・・・」のところです。この記事の30年ほど前に描かれた『秩父巡拝図絵』では、「秩父屋に入ったけれど、主の女房糸を繰居たるが、相手もせずに・・・」と嘆き、「蔵づくりは数軒あるが瓦屋根の家は絶えてなし」としています。所沢の町筋がどの様に形成されていたのか、そこで、まちの指導者は何をしていたのか、もう少し書き込んでくれていたらと思います。
 
#1127 野火止用水さま
市場とか芸者とか、所沢は相当大きい町だったような印象を受けます。その町で村役人たちが全く機能していなかったというのは、何かあるのだろうと思いますが、仰るようにもうちょっと情報が欲しいところではありますね。
代官所がどのような裁定を下したのかも、気になります。

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