幕末・ごめんね青春!続。

いや、ホントにもう幕末・・・もとい年末って、バタバタしていますねぇ。
たいした仕事もしていないのに、忙しいです。
みなさんも同じように忙しい日々をお過ごしかと思います。
そんな中でも、当ブログに遊びに来ていただき、ありがとうございます。
たぶん、今年最後の更新かもしれません。な。

高木村のかねちゃん(18)は、柴崎新田の林蔵くんと結婚間近のカップルです。
ところが10月26日の夜、清水村の善吉が「かねはオレの女だべさ!」と彼女を
拉致して親類の家に閉じ込めてしまいます。
驚いたかねちゃんの父親清兵衛や、兄の万五郎は、彼女が預けられている善吉
の親類源次郎にかねを返してくれるように頼みますが、源次郎から拒否されて
しまいます。
そこで、後ヶ谷村の名主・平重郎さんが中に入り、やっとかねちゃんは実家に
返されることとなりました。ところが、善吉の父仙蔵や源次郎らは「金を払うなら
かねは返すが、そうでなけりゃ返せねぇ」と言ってきたのです。
困った万五郎は、代官所の上の機関である勘定奉行所に被害届を提出。なん
とか助けてくれるようお上に訴えるのでした。

11月14日に勘定奉行所から返信が届きます。
しかし、それは驚くべき内容でした。

「斯くのごとき訴状が出されたので返答する。
来月2日に評定所へ出頭して、お互い意見を言いなさい。もしも
欠席すれば、処罰するものとする。
 申 11月14日 
丹波   ※山口丹波守直信
大蔵   ※塚越大蔵少輔之邦
隠岐   ※酒井隠岐守忠行
出雲   ※松平出雲守康正
因幡   ※石谷因幡守穆清
播磨   ※池田播磨守頼方
大善   ※青山大善亮幸哉
左近   ※水野左近将監忠精
伊豆   ※松平伊豆守信吉
伯耆   ※松平伯耆守宗秀
(※は筆者追記)   」 


評定所というのは、幕府の最高司法機関であり、現代でいうなら最高裁でしょうか。
寺社奉行・町奉行・勘定奉行の三奉行が合議をして裁定を下すもので、場所は
江戸城和田倉門外の辰の口にありました。
毎月6回、寄合が行われますが、2日というのはその中の一日です。
書状に書かれている10人の出席者、いわばこの一件を審議する「裁判官」が列記
されていますが、丹波・大蔵・隠岐・出雲は勘定奉行、因幡・播磨は江戸町奉行
大善・左近・伊豆・伯耆は寺社奉行です。(「里正日誌」解説による)

この書状を見た万五郎さんたちは、相当ビックリしたに違いありません。
いや、ビックリなんてものじゃなかったんじゃないかな。
だって、かねちゃんには悪いけど、評定所まで呼び出されるような事件じゃないと
、万五郎さんも善吉側も思っていたハズだからです。

評定所が裁く事件は、出入り筋(民事事件)では原告・被告を管轄する奉行が異なる
場合。吟味筋(刑事事件)では世相を騒がすような重要事件か、被疑者が上級武士
だった場合に限られました。
この事件の関係者の住所は高木村、清水村、柴崎新田と、いずれも江川代官領(天領)
であり、全域勘定奉行の管轄です。
それが評定所まで達したというのは、どういうことでしょう!?
よほどの世間を騒がす重要事件だと、お上は見ているのでしょうか?

さァ、関係者一同大慌て。基本的に江戸時代の農民たちは、大事になるのを嫌がります。
もはや「ホロ苦い青春の先走り」では済まされなくなったのです。

「対談議定書の事
武州多摩郡高木村百姓清兵衛が病気のため、代理として同人倅の万五郎より、同州
同郡清水村百姓仙蔵とほか4人へ、関わった女取戻し事件について申し上げます。
山口丹波守様をはじめとする方々の、御尊判のある書状を拝見して、一同驚き入って
いるところです。ご指定日以前に仲裁者が立ち合いの上、熟談し示談となりましたのは
以下の通りです。

一、訴訟人万五郎が申し立てた通り、かねの身柄と同人が持っていた品々は残らず
万五郎方へ渡すよう申すべきことである。その上は訴訟人側も申し分はないはずである。

一、相手のうち、善吉・仙蔵の言う筋の通らない縁談の申し入れは過失であり、詫びに
証文を差し出すよう申すべきこと。

一、長蔵・鉄五郎・源次郎は、善吉とその親である仙蔵より頼まれ、無理にかねを貰い
受けたいと申し出たまでで、徒党を組んで共謀してはいないと申してはいるが、この程
相手取られ今さらながらに航海しているので、仲介者が入って挨拶を申し上げるべき
はずである。そのほか行き違いがあって言い争いになった事々は、仲介者が引き受ける
ことで一同申し分ないことである。

右の通り対談を取り決めた上は、双方申し分なく熟談し示談いたしました。しかる上は
済口証文(示談書)は双方とも各方へ任せるように申すべきことである。印を押して
議定の証文を差し出すよう間違いなく申します。
  万延元申年11月23日  」


万五郎さんと仙蔵さんらは、お互いの村の名主・組頭と連名で、この議定書を仲裁者
である後ヶ谷村の名主・平重郎さんや蔵敷村の杢左衛門さんらに提出しました。
これによれば、ほぼ全面的に万五郎さん側の言い分が通ったようですね。
そして、評定所へ出頭する期日の直前、11月27日に「当事者同志の間で示談が
成立しました」との書状が万五郎、仙蔵、源次郎から評定所に出され、事件は落着
いたしました。
評定所へは行かなくて済んだようです。

しかしなぜ、農村の些細とも受け取れる男女のもつれが評定所まで出てくる事態と
なったのでしょう。
時代的にはこの2年前の安政5年(1858)に、幕府はアメリカを始めとする諸外国と
通商条約を結んでいます。すると輸出超過による国内物資の不足、また金銀の交換
比率の違いから金が海外に大量に流れ、経済の混乱を招いてしましました。
さらに、国内に外国人が居留するようになったため、幕府は多摩地域の農村へも
外国人とむやみに接触しないように触書を出して、警戒を強めていました。

これらのことを総合して考えると、社会全体が幕府の思惑通りにだんだんと行かなく
なってゆき、それまで担当の管轄部署に任せておいた案件も、さらに上のレベルで監視
しなければならないような雰囲気が幕府の内部にできてきたのではないでしょうか。

ちょっと話が政治的になっちゃったんで、元に戻しましょう。
この示談書ですが、話がお互いの家同志の話になってしまっていて、かねちゃんは「身柄
と所持品が返ってくればいい」みたいなことになり、なんか腑に落ちない所もありますね。
かねちゃんはひと月も監禁されていたのに、何のケアもなさそうですものね。
議定書が平重郎さんや杢左衛門さんらに出された同じ日、かねちゃんの父親清兵衛さん
に善吉・源次郎・鉄五郎の3人は詫び状を出しています。そこには、

「・・・不調法だったことはお詫びしますので、ご勘弁ください。その上で、今後執着がましい
ことのないよう慎むことを申します・・・」


と書いてあり、善吉が一方的にかねちゃんに言い寄っていたことがわかりました。
かねちゃんの身に何もなかったことを、今さらですが祈ります。
「ごめんね、青春!」

20141228.jpg


今年一年間、当ブログに来ていただきまして、ありがとうございました。
また来年も続けていきますので、よろしくお願いします。


「なんだー。このボタンちょっと押してみるんだな。うーん、なんだー。」



にほんブログ村 歴史ブログ 幕末・明治維新へ
にほんブログ村


にほんブログ村 漫画ブログへ
にほんブログ村

スポンサーサイト

トラックバック一覧

コメント一覧

#954 けんかをやめて
河合奈保子さんの歌う「けんかをやめて」という歌を思い出してしまいます。
あれはどう考えても悪女の歌ですね。しかも本人無自覚。
でも実際18歳くらいの女の子は無敵なんです。
ちょっとした素ぶりや言葉で、同年代の男の子なんてメロメロ(死語)になってしまう…

ドラマにするなら、
私的には善吉君役が男気のある良い奴であってほしいです。誰からも一目
置かれる男なんだけど、そんな奴が恋に盲目になってエスカレートしてしまう…一方林蔵は大した奴じゃないんだけどかねちゃんだけからは、何故か好かれてる諸星あたる的な(古!)キャラクターと…こんなシチュエーションが良いです。
そして最後にはマッドホーリーばりの柏木荘蔵が登場とか…
うーん、私勝手に暴走してますね…(笑)

一年間、本当に楽しい記事をありがとうございました。毎回ブログの更新を楽しみにしていました!
#955 甚左衛門さま
妄想大いに結構だと思います。
史料というのは小説じゃないんで、表面的な事実しか書いてありませんが、そこに
自分で話のウラを読んだり、登場人物を俳優にあてはめたりするのが楽しみでも
ありますから。
万五郎の書状には林蔵が交渉の席に出てこないので、確かに「ホントにかねちゃん
を好きなのか?」と思わないでもないですね。

甚左衛門さんからは、多摩地域を中心とした博徒の話をいろいろ聞かせていただき、
いつもありがとうございます。
来年も、お気づきの所があればコメントをよろしくお願いします。
#956
うーん…
つくづく、女の人は物でしかなかったんだなぁ
と、痛感させられますね。
そんな状況でかねちゃんが何もされなかったはず
ないと思うし…
拉致監禁って。
恐ろしい。
#957 懲役刑推奨
結局、善吉はとんでもない甘ったれの不届き者でしたか。
いっそ命を賭けて「かねが好きだー!」と評定所で主張すればまだしも、
そこまでの情熱も度胸もないのに拉致なんかするな。
こやつの愚行を止めるどころか手伝った周囲の大人達も、どうかしてますよ。

あまり関係ない話で恐縮ですが、キルギスの「誘拐結婚」を連想してしまいました。
フォトジャーナリスト林典子さんの取材で、日本でも知られるようになった模様。
関連記事を読むと言葉を失います。キルギスとて法治国家のはずですが……

今年も興味深いお話とマンガの数々を拝読しました。ありがとうございます。
毎度のお目汚しコメント、失礼いたしました。
どうぞ良いお年をお迎えください。
#958 しかし、絶妙なタイミング
 同じような出来事の解決に、お上の手を煩わせてややこしくなる寸前に、「示談」成立に持って行く名主を初めとする村役の手腕には、いつも感心させられます。
 でも、肝心の林蔵とかねやんの人権です。全くといって記述されない(=考慮されない)のは理不尽この上なしです。
 村人への江戸の裁きは、どうも一面的な感じで、しかめっ面をしています。
 そして、なぜ、このような基盤から、自由民権運動が起こったのか不思議です。
 一年、いろいろ楽しませていただきました。来年もよろしくお願いいたします。
#959 管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
#960 みゅったさま
実際に拉致だったのか、監禁されていたのかはこの史料だけでは何とも
いえませんが、その可能性は高そうですね。
かねちゃん個人への補償はあったのか、こういった問題は他の地域でも
あったのか、いろいろと知りたい事の多い事象です。

#961 東屋梢風さま
キルギスの誘拐結婚は酷い話ですね。かねちゃんの場合も、善吉側はそのまま
押し切ることができると思っていたのでしょうか。
最後の詫び状で、善吉はストーカーだったような印象もありますね。
残念なのは、評定所にビビッた大人たちが自分らで示談に持ち込んじゃったこと
で、もし評定所で当人らの意見陳述の機会があったのなら、東屋さんの仰るような
善吉の発言があったかもしれません。

こちらこそ、今年一年ありがとうございました。
コメント、楽しみにしていました。まだまだ教えていただきたいことがありますので、
来年もよろしくお願いいたします。
#962 野火止用水さま
この一件が示談で終わらず、江戸まで解決が持ち越されたのなら、どのような
解決と影響があったのかと考えてしまいます。その場合でも、かねちゃんや
林蔵は脇へ置かれたままだったのでしょうか。

今年も多くのコメントをいただき、ありがとうございました。
また来年もよろしくお願いいたします。
#963
こんにちは。

まぁ、この手の諍いごとですと、当事者の手記が残されるなんてことは殆ど考えられない時代ですからねぇ。これでもまだ一連の文書が残っている方でしょうね。それにしてもこの程度の諍い(と言ってしまうと語弊ありますが)で奉行一同勢揃いというのも面白い事例ですね。

楽しい漫画と色々と興味深い史料の紹介ありがとうございました。どうぞ良いお年をお迎えください。
#964 kanageohis1964さま
いや、本当にこのくらいのことでなぜ評定所まで出てくるのか、そんな例が他
にもあるのか知りたいところです。
ご紹介はしませんでしたが、評定所ではこの一件を「吟味筋」ではなく、「出入筋」
として扱う予定だったようです。つまり、かねちゃんの拉致監禁は特に問わず、
両家の諍いの調停が主だったようですね。この辺りの感覚が現代人と違っています
ね~。

いつも来ていただき、ありがとうございました。
kanageohis1964さんも良いお年をお迎えください。
#965
新年あけましておめでとうございます。

天気が悪いので、寝正月です(笑)
今年もよろしくお願いします。
#967 マウントエレファントさま
明けましておめでとうございます。

ワタクシは雪が降る中、初詣に行ってきました。
寒かったです。
こちらこそ、よろしくお願いします。

コメントの投稿

名前

タイトル

メールアドレス

URL

本文

パスワード

非公開コメント管理者にだけ表示を許可する